写経の作法と功徳
写経の作法
写経にはさまざまな作法があると思いますが、ここでは修行時代に高野山で習った作法を紹介します。
一、先づ道具を用意する
紙と手本、そして筆を用意します。
墨書きする場合は、墨汁を使うのではなく、事前に墨を擦っておきましょう。
筆は、筆ペン、サインペン、ボールペン、万年筆などでも構いません。
鉛筆など書き直しできるものは避けましょう。
二、次に手を洗い口をすすぐ
更に、身体に塗香を塗り、丁子を口に含むと、なお気持ちが引き締まります。
塗香や丁子を用意できない場合は、そのまま三へ
三、次に合掌して以 下の偈文をお唱えする
無上甚深微妙の法は百千萬劫にも相遭うこと難し。
我今見聞し受持することを得たり。
至心に般若心経(お経の名前)を写経し諸仏に供養し奉らん。
四、次に心をこめて浄書する
願主の名前は必ず書いて、奉納してください。
五、次に浄書したお経をお唱えする
その場ですぐ読んでけっこうです。
六、次に御宝号をお唱えする
南無大師遍照金剛
七、次に廻向文をお唱えする
願わくばこの写経の功徳をもって
普く一切に及ぼし、我等と、衆生と
皆ともに仏道を成ぜんことを。
八、次に道具を片づけて終わる
写経の功徳
お経を書かせていただくことは、お経をお唱えさせていただく以上に功徳のある信心深い行いと言われます。
その功徳力には、願いごとを叶えることと人格の修養という2種類があります。
まず願いごとを叶える功徳力の例として
平安の昔、国中に悪疫が流行して止む気配もありませんでした。弘法大師のご教示により嵯峨天皇は、金泥を持って紺紙を染め、般若心経一巻を書写し祈念しましたところ、不思議にも災いたちまちに治まったといわれます。
次に人格の修養という点では、
綺麗に浄書できた写経と、うまくできなかった写経は、自分が見てすぐにわかってしまいます。自分の精神状態は字に現れます。適当にただ数をこなすだけの、やっつけ仕事だと自覚している写経には功徳力が宿りません。
最初から最後まで集中して、時間を忘れて一気に書き切ることが大切です。そうして書いた写経には、「しっかり書けた」という達成感と安堵感が生まれます。
雑念を払って、ただ一つのことを一生懸命やる。それだけのことに時間を使う。このことが写経の醍醐味で、写経以外の別の何かでは得がたい点です。
なぜかと言うと、わたしたち現代人にとって、たった一つのことにだけに時間と意識を使うことが難しくなっているからです。
自分の例で書くと、
ネットやスマホからの情報があまりにも過多で、それらを自分の中で処理できないまま、また新しい魅力的なインプットが押し寄せてきて、絶えず気になっている状態です。どこかで一旦区切りをつけられればいいのですが、それもままならないまま、必要に駆られて某かのアウトプットします。処理も整理もできていない状態なので、焦りや混乱を伴って満足できるものではありません。「あれでよかったのか」という不安と後悔を抱きます。しかし、直ぐ次のインプットが押し寄せてくるので、その余韻に浸って熟考することなく、次の行動を行います。
流されている。
過去の後悔と先の不安にさいなまれている。
すなわち、今この瞬間を生きていない。と言えるでしょう。
写経をはじめてください。
ただひたすら、お経を写す。時間を忘れて没頭できます。
脳が、あれこれ考えすぎる緊張状態から解放されて、気持ちがフラットに戻ります。
いいことに時間を使えたな、と思えたり、少しでもストレスの発散ができたなら写経を続けましょう。
写経の願意
写経の最後に「有為」とある下には、願いごとを書きましょう。
家内安全、交通安全、海上安全、社内安全、
身体健康、無病息災、息災延命、病気平癒、
厄難消滅、除災招福、商売繁昌、事業繁栄、
大漁満足、心願成就、学業成就、良縁成就、
安産成就、子宝成就、就職成就、所願成就、
先祖供養、水子供養、入試合格、如意円満、等
「世界が平和になりますように」「家族が皆健康で暮らせますように」と書き下し文でも構いません。
「(名前)の病気が治りますように」と他人を思いやる願いでもOKです。
ただし、
「(名前)が呪い殺されますように」といったマイナスに働く願いは書いてはいけません。
注意点
まずは馴染みのある普段読んでいるお経をしっかり書けるようになりましょう。
ただし、書きたいっ!と思うお経があるなら初見でもチャレンジしてください。
書き慣れたお経でも、集中力が足りなくなると、すぐに誤字・脱字してしまうのが写経です。
書きたいと思うお経の方が集中力が出ます。
同じお経を何巻書いてもかまいません。毎日一巻、千巻を目指す等、目標をもって日々の日課にするといいでしょう。
書いた写経は必ず奉納してください。
書いたら近くのお寺に奉納しに行きましょう。
奉納しに行きたいお寺を見つけましょう。
書きためて、お遍路に出発しましょう。
書いた写経は札所のご本尊の前で読み上げ、写経入れもしくは納め札入れに奉納してください。
また、写経は親しい人の棺に入れてあげてもよいでしょう。
その場合の願意は、
有為 俗名(亡くなった方の名前)頓証菩提
としてください。
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