夫婦遍路のススメ by 寺嫁
去る6月10日
結婚5周年を記念に、初めて夫婦だけで遍路に出かけた。
歩き遍路は今回で3度目。
コースは、
清見寺〜木下庵〜峯山庵〜本堂〜安養寺〜誓願寺庵〜櫻庵〜阿弥陀寺〜薬師堂〜風穴庵〜正法寺。
日々、同じ自坊に勤める私達だが、やんちゃ盛りの2児の子育てと日々の仕事に追われ、面と向かって二人きりという時間はほとんどない。
「二人でまったりと〜」とほのかな期待をよせる私。
が、出鼻をくじかれた。
妻が準備しているのを待ちきれない夫はイライラ。
片や妻は準備ができているのに、なかなか出発しない夫にイライラ。
5年目にして意思疎通率0%
いや年数は関係ないかも(苦笑)
そして、清見寺〜木下庵への道すがら早くも道を間違う。
一本横道に入ると、案内が無くわかりにくいのが島遍路。
次の峯山庵への道もまた迷い、同じ場所をウロウロ。
その時、「お遍路さん!どこ行きたいの?」
と近くの公民館から80歳近いお爺さんが走って出てきてくれた。
「車道を歩きたくない、近くに抜け道があるはず」という旨を伝えると、
地図には載っていない近道を教えてくれた。
別れ際、そのお爺さんをよく見ると30センチの段差を登るのもやっとの感じ。
ウロウロしているお遍路さんを見つけていても立ってもいられず
走り出てきてくれたようだ。
『あ〜ご褒美だ〜。ありがとうございます。』
無意識につぶやいていた。
峯山庵〜本堂〜安養寺〜誓願寺庵へ。
比較的歩きやすい道中で、私は夢中になっているNBAファイナルの選手の特徴や第一戦からの試合状況を延々と話す。
夫も普段バスケットは見ないが興味津々の様子。
誓願寺庵〜阿弥陀寺へ道中。
私達を迎えてくれたのは竹林の道。
少し立ち止まって天を仰ぐ。
まっすぐ伸びた竹は清く、吹き抜ける風が複雑に絡まった心を解きほぐしてくれる。
『あ〜またご褒美だ。』
阿弥陀寺〜薬師堂へは、海岸線をひた歩く。
先ほどまでの景色とは変わって、どこまでも続く穏やかな瀬戸内の海。
一切の障害物がない解放された景色に、海の向こうの世界を想像しながら
身も心も委ねてただただ歩く。
『ご褒美だわ〜。』
小一時間の道中。
今度は夫の趣味のカメラの話。
どうして、カメラ好きになったか。
カメラ業界の歴史。
そして、今使っているカメラに辿り着いた自身のカメラ遍歴。
正直、特に興味は無い。
わかった事は、私の想像していた以上に夫がカメラオタクだったということ。
こりゃ〜なかなか手強い。
そんな5年目の新発見も夫婦遍路の『ご褒美なのか!?』
夫の声や話にも飽きてきたころ、通りすがりのお婆さんが私達に声をかけてくれた。
久々の他人様、いや他人様々発見!!
たわいもない世間話が妙に新鮮。
今度こそ間違いなく『ご褒美だ!』
この頃になると足の疲労も溜まってきて、やっとの思いで薬師堂へ。
薬師堂からはひと山超えなくてはいけない。
小さな山でもやはり山。
会話も無くなり、足もさらに重みを増す。
山寺が無いとタカをくくっていた私は体力の配分を間違えたようだ。
さすがの夫も一言も発せず呼吸が荒い。
そんな疲労困憊の二人を迎えてくれたのはウバメガシのトンネル道。
疲れた足の疲れを吸い取ってくれる落ち葉道。
時々こぼれてくる木漏れ陽に癒されながら風穴庵を目指す。
ここまで歩いて来たからこそ感じられる『ご褒美』だ。
トンネルを抜けると、そこは風が吹き抜ける穴名前通りの庵だった。
風穴庵〜正法寺は穏やかな田園風景。
同じ島なのにどこか時間の流れが違って感じる。
正法寺のご住職に温かく迎えられ、無事夫婦遍路を結願する。
今回の夫婦遍路。
残念ながら、新婚当時の熱〜い想いは復活しないが、
お互いをもう一度知るとても貴重な時間になった。
そして、沢山のご褒美を頂いた。
普段の生活では気づかないし得られない想いだ。
これだからやっぱりお遍路はやめられない!
瀬戸の寺嫁
さちえ 39歳
(2015年6月10日 夫婦遍路にて)
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